nalacarte

奈良のアラカルト=ナラカルトは奈良の観察記録です。

秋篠寺/奈良の苔寺。日常をすこし離れて苔青し。往時の大寺院もいまはひっそりしています。

f:id:nalacarte:20170919095047j:plain

f:id:nalacarte:20170919095119j:plain

西大寺の北に秋篠寺はあります。昔日には寺領を争った間柄というほどですから、いかに大きな寺院であったのかわかります。奈良の多くの寺がそうであるように、歴史のうねりに翻弄され、秋篠寺も火災によって規模を縮小せざるを得ませんでした。金堂や東西の塔の礎石が残るばかりです。姿を大きく変えてしまいましたが鎌倉時代に再建された本堂は端正にして涼やかです。

f:id:nalacarte:20170919095208j:plain

f:id:nalacarte:20170919095237j:plain

f:id:nalacarte:20170919095312j:plain

f:id:nalacarte:20170919095343j:plain

f:id:nalacarte:20170919095413j:plain

禍を転じて福となす。いまでは境内の大部を苔がおおい、雨に洗われたようで、緑あざやかなビロードが敷かれているようでした。柔らかで、なめらかで、ふわっとしている。質朴を旨とする寺院にあって、しっとりした苔があつらえ向きにできあがっているのです。虚飾のないさまにしばし立ちつくします。

f:id:nalacarte:20170919095445j:plain

f:id:nalacarte:20170919095520j:plain

f:id:nalacarte:20170919095554j:plain

f:id:nalacarte:20170919095628j:plain

f:id:nalacarte:20170919095657j:plain

奥飛鳥 栢森(かやのもり)/飛鳥川がはじまります。吉野への街道が貫いています。栢森は宿場町として栄えました。

f:id:nalacarte:20170905135011j:plain

天が近くなり稲が谷間を埋めつくしています。狭いところなのに窮屈さがありません。

f:id:nalacarte:20170905135057j:plain

f:id:nalacarte:20170905135130j:plain

f:id:nalacarte:20170905135200j:plain

f:id:nalacarte:20170905135229j:plain

手谷川と行者川が合流して飛鳥川となります。下流の稲渕に比べれば小規模ですが、飛鳥川の水を利用した細くて長い田んぼが山間に連なります。念入りな仕事ぶりで稲はすくすく。米のおいしさは格別かもしれません。人間の辛抱強さとたおやかさを感じます。

f:id:nalacarte:20170905135340j:plain

f:id:nalacarte:20170905135410j:plain

f:id:nalacarte:20170905135437j:plain

石舞台から歩いておよそ2時間の行程です。険しい山間とはいえ、ここまでの道は緩やかでのんびりした景観を楽しませてくれます。途中、高取城趾に抜ける山道もあります。吉野への重要な街道筋だったとは思えない静かさです。川のせせらぎを耳にすれば往時の音が聞こえてくるようです。このあたり役行者も修行したそうです。

f:id:nalacarte:20170905135308j:plain

f:id:nalacarte:20170905135514j:plain

f:id:nalacarte:20170905135559j:plain

自然に同化しているような集落です。春を迎えると、トンボは飛び交い、オタマジャクシとアメンボは泳ぎ回り、飛鳥ホタル幼虫の餌となるカワニナという巻き貝もいると聞きました。汚染の進んだ水域にはいない生き物です。美しいと感じた田んぼは、大地から滲み出てくる生命の力強さに依っているのかもしれません。山の向こうからこの上なく爽やかな風が渡ってきました。

f:id:nalacarte:20170905135631j:plain

奥飛鳥 飛鳥川にそって/古代からあった飛び石。向こう側に渡るのは待っている人がいるからです。

f:id:nalacarte:20170905133028j:plain

稲渕集落に入るところに男綱が掛け渡っていました。ここの神事は神式で行われます。栢森(かやのもり)に入るところに女綱が掛け渡っていました。ここの神事は仏式で行われます。飛鳥川でつながっている村の神仏習合はいとおかし。

f:id:nalacarte:20170905133106j:plain

f:id:nalacarte:20170905133137j:plain

稲渕の上流に栢森はあります。飛鳥川のはじまるところです。ときどき氾濫することがあったのか、この辺りでは橋の代わりに飛び石が古代からあったようです。万葉集の恋の歌にも詠われるほどですから日常的に使われていたことが分かります。

f:id:nalacarte:20170905133222j:plain

f:id:nalacarte:20170905133306j:plain

男綱と女綱の綱掛神事は子孫繁栄と五穀豊穣のためのものですが、飛鳥川に掛け渡すことで悪疫の侵入を防ぐ装置でもあるそうです。集落の結界にもなっていて村民を守護しているとか。男綱と女綱、いまもって村民の厚い信仰に無くてはならない存在となっています。

f:id:nalacarte:20170905133433j:plain

f:id:nalacarte:20170905133502j:plain

f:id:nalacarte:20170905133532j:plain

飛鳥川は古代の大動脈でした。生きるも死ぬも、生かすも殺すも、飛鳥川への取り組み方で大きく左右されました。

f:id:nalacarte:20170905133603j:plain

f:id:nalacarte:20170905133633j:plain

f:id:nalacarte:20170905133703j:plain

奥飛鳥 稲渕集落/蘇我家打倒の気運が高まり謀議はここ稲渕で。入鹿の暗殺を経て国家の体裁は整えられていきました。

f:id:nalacarte:20170814114901j:plain

奥飛鳥の入り口に蘇我馬子の古墳と推定されている石舞台があります。そこから少し南下すると稲渕の集落ですが、その途中にきわめて珍しいピラミッド型の古墳があります。これは蘇我稲目のものと比定されています。勢力の強さを物語っていますがそれだけに反発する力も大きくなっていました。

f:id:nalacarte:20170814114952j:plain

f:id:nalacarte:20170814115023j:plain

稲渕集落に南淵請安の家がありました。小野妹子について遣隋使となった人です。最新の学問を持ち帰り、皇族や官僚に国の在り方に関わる重大な知識を伝えました。このとき蘇我一族の古い体質は否定され、ついには抹殺すべきという結論を導き出しました。

蘇我入鹿暗殺は成し遂げられ、時をおかずして大化の改新がはじまりました。国家の体をなしていなかった蘇我時代は終わったのです。それらのはかりごとは稲渕で秘密裏に練られたものです。国らしくなる、始まりのはじまりが稲渕でした。

f:id:nalacarte:20170814115058j:plain

f:id:nalacarte:20170814115134j:plain

f:id:nalacarte:20170814115212j:plain

千数百年前から存在しているとおぼしき稲渕の棚田は標高差50メートル。工夫された石積みが続きます。すぐ脇を吉野に抜ける街道が貫いていますが、ここを頻繁に利用した持統天皇も、西行庵を目ざした松尾芭蕉も、ただただ驚愕したことでしょう。

f:id:nalacarte:20170814115249j:plain

f:id:nalacarte:20170814115321j:plain

f:id:nalacarte:20170814115350j:plain

f:id:nalacarte:20170814115419j:plain

平城宮跡 燕のねぐら入り/真夏の夕刻。四方から飛んでくる燕の大群。ことばを失うほどダイナミックです。

f:id:nalacarte:20170823155541j:plain

f:id:nalacarte:20170823155829j:plain

f:id:nalacarte:20170823155906j:plain

春にやって来た燕は夏にかけて町中の民家などに巣を作ります。軒先で口を開けピーピー鳴いている赤ん坊を見かけますが、彼らの成長は早く、あっという間に一人前となり巣立ちをします。夕方は集団で行動し、夜には葭(よし)原などで一緒に眠りにつきます。

f:id:nalacarte:20170823155935j:plain

f:id:nalacarte:20170823160006j:plain

f:id:nalacarte:20170823160033j:plain

夕暮れ時、平城宮跡の上空に3万から5万の燕が飛んできて旋回します。そして辺りが暗くなると次々と急降下して葭のねぐらに飛び込んでいきます。一本の葭に4〜5羽のの燕がつかまって寝るそうです。上空に燕が集まり始めてから、全員が葭原に入っていくまでの凡そ30分の間、その躍動感あふれる動きに圧倒されます。

f:id:nalacarte:20170823160120j:plain

f:id:nalacarte:20170823160156j:plain

夏も終わりに近づくと虫をたらふく食べて太った燕から南へ渡っていきます。2500キロの過酷な旅です。インドシナ半島マレー半島、そしてオーストラリアへ。あの小さな身体のどこにそんなエネルギーがあるのだろうと思わずにいられません。おきばりや!

f:id:nalacarte:20170823160228j:plain

登大路 日吉館を懐かしむ/貧乏学生の泊まれる宿。いちどはすき焼きを馳走に。名だたる文化人の定宿でもありました。

f:id:nalacarte:20170814084811j:plain

会津八一も、和辻哲郎も、小林秀雄も、土門拳も、平山郁夫も、貧乏学生の磯崎新もここを足がかりに奈良を巡っていました。雑魚寝しかできない部屋があるのみ。それでも寄り集まっていました。寝坊しては怒られもしましたが女将さんの悪口を言う者は一人としていませんでした。

f:id:nalacarte:20170814084847j:plain

f:id:nalacarte:20170814085032j:plain

f:id:nalacarte:20170814085105j:plain

f:id:nalacarte:20170814085146j:plain

f:id:nalacarte:20170814085219j:plain

文化とはなにかと考えさせられます。立派なものとは無縁の日吉館でしたが見事な存在でした。文化人にかぎらず、志賀直哉を訪ねた学生たちの定宿でもありました。前に広がる博物館の庭や裏手の東大寺を散歩しては思いを巡らし、この国のなんたるかを模索したことでしょう。

f:id:nalacarte:20170814085346j:plain

f:id:nalacarte:20170814085417j:plain

f:id:nalacarte:20170814085447j:plain

女将さんの切り盛りは愛情そのものでした。訪れる者にわけへだて無く接してくれました。1995年に80年の歴史をとじましたが多くのものを残しました。日吉館の周辺はすっかり変わってしまいましたが、その記憶はこの地に克明に刻まれていつまでも語り継がれていくことでしょう。

f:id:nalacarte:20170814085517j:plain

f:id:nalacarte:20170814085546j:plain

f:id:nalacarte:20170814085613j:plain

春日大社 奥の院道/本殿の南東のどんづまりに紀伊神社(奥の院)。鬱蒼とした森を縫って小道が続きます。

f:id:nalacarte:20170729174202j:plain

三条通の東の端にある一の鳥居をくぐれば、高木の枝が頭上をおおい、夏の日照りをさえぎってくれます。木々を渡ってくる風は涼やかで、夏の散歩にはこの上なく贅沢なコースになります。朝が早いほどさわやかですが、昼日中でもさして苦にならない道のりです。

f:id:nalacarte:20170729174245j:plain

f:id:nalacarte:20170729174410j:plain

f:id:nalacarte:20170729174444j:plain

f:id:nalacarte:20170729174547j:plain

f:id:nalacarte:20170729174643j:plain

本殿から奥の院へは、のんびりした歩調でも10分程度です。原生の森の中を歩いて行くことになります。東大寺とは若草山をはさんで隣同士ですが、まったくの別世界が広がります。東大寺は山の縁にある寺院。春日大社は山の中にある神社です。

f:id:nalacarte:20170729174736j:plain

f:id:nalacarte:20170729174821j:plain

f:id:nalacarte:20170729174855j:plain

木洩れ陽は生き物のように揺れ、苔むした山を背景にして踊っているかのようです。沢を流れる水の音がひときわ響いてきます。日陰の美しい季節になりました。

f:id:nalacarte:20170729174934j:plain

f:id:nalacarte:20170729175006j:plain

f:id:nalacarte:20170729175036j:plain

Copyright(c)2016 Nalacarte.All Rights Reserved.